Eternal porce 〜永久指針 (ラバヒルです)
 


ふと、何かしらに突々かれて、深い眠りから意識が浮かび上がる。

 “……何だろ。”

布団の中は暖かだし、寝室は静かで何の気配もなくて。

 “トイレ…でもないしなぁ。”

若さのせいもあるだろし、
何より、体を存分に動かす日常が基本なため、
一度寝つけば朝までぐっすり、途中で起きることは滅多にない方だのに。
何だろ何でだろと、ぼんやりと想いを巡らせておれば、

  ―― さあさあさあ、と。

ずんと遠くの風の音、いやいやこれは、

 “雨?”

そうさ、ここは防音が効いててよほどの音じゃないと聞こえはしない。
風の唸り程度じゃあ届かない。
なので、
雨脚の気配で目が覚めたのなら、結構な降りようだってことでもあって。

 “そっか、そういや妙に生暖かだったしな。”

この雨を呼ぶ前兆だったのかなあ。
そんなこんなと納得したことで、
再びの眠りがゆるやかに訪れかけたけれど。
まろやかな暖かさの中、顎の先へと掠めた擽ったい感触があって。
それが桜庭の意識を甘くくすぐる。

  ―― だって、今が至福だってことの証し

髪の先が掠めたのは、
彼もまた雨の音で目覚めかけていての身じろぎをしたからだろうか。
明かりを落とし、
しかも、軽いとは言え、ダウンの掛け布に埋もれるようになっているせいで、
相手の顔とか、全く見えやしないのだけれども。
それでもいいのだと思える不思議。
直接触れてる肌の温みとか、微かにこぼれて来る吐息の気配とか、
それだけで十分。
むしろ、余計な身動きをして、
それで目覚めかけてるところを起こしてしまわぬよう、
このまま眠れ眠れと、ついつい念じてしまうほど。

 “…だってさ。”

素肌なんていう、これ以上はない無防備な姿になって、
間近に触れ合い抱き合ったまま、
すとんと深く寝入ってしまえるようになんて、
そうそうなれるもんじゃあない。
ましてや、相手は警戒心の強いことじゃあ野ウサギみたいに敏感な人。

 “…ウサギはないだろ。”

お耳は尖ってますが。
(微笑)
だったら仔ギツネかな?なんて、
自分の想定に苦笑しかかったそんな間合い、

 「……………んぅ。」

浅い眠りの中で何かに つっかえでもしたものか、
その身をすりすりとこちらへ擦り寄せながら、
も一度 眠りへ潜り直そうとする仕草を見せるのが、

 “うあ、かわいい…。/////////”

口許が嬉しくてのたわみかかって、対処に困る。
ああきっと、今 物凄く情けない顔になってるぞと、
いつの何よりも自信がある桜庭で。
でも、

 “……………あ。”

そんな笑みが中途で微妙に固まったのは、
寄り添って来た肢体が、
熟睡という弛緩状態にあっても…ある程度の堅さをたたえたままだったから。
肩口と二の腕と、
互いにしゃにむに抱き合ってたときは気がつかなかったけれど、

 “また少し、筋肉ついてないか?”

腕の骨折を驚異の早さで完治させたのみならず、
無敗の帝王を初めて負かした、とんでもないゲームを御しもした悪魔様。
狡智・奸計に長けてるだけじゃなく、
自身の体を叩いて叩いて鍛えておくことも怠らない彼であり。

 「………。」

弱小も弱小、素人ばかりの集まりから始まった、
自分で作って自分で管制したチームにて、
どこまでも高みを目指した君は、

 “…やっぱ、アメリカを目指してるんだったよね。”

いつだったか、そんなこと言ってたなと思い出す。
そんな宣告をされた夢を見たって零したら、
親の仕事に振り回されてって形じゃあなくとも、
どうせ目指すのはアメリカだしと。
事もなげに言ってた妖一だったのは、そんなに昔の話じゃない。
何も いかにも熱血に目指していた訳じゃなにのだろうが、

 『そこに一番強えぇ奴らがいるんなら、
  すごろくの順番として、針も向くってもんだろさ。』

いつだって挑戦者な君は、
果敢な眸をして微笑ってて。
ちょっぴりふしゅんと肩を落としたこちらへ、
おいおいとくすぐったそうな顔をしたっけ。

 『お前だって、諦めの悪さじゃあ俺と張るくせに。』
 『………え?』

気づいてないなら これ以上は…癪だから言わねなんて、
そんな意地悪 言って、その話は有耶無耶にされちゃったけど。

 “いーもん。アメリカへだって追いかけてくんだから。”

今はまだ うまく言えないのだけれど。
その強かな背中へ依存するのじゃあなくて。
自分の足で立って、自分の地力でバネためて、
自分も同じように高みを目指して、駆け続ければいいだけのこと。
ただ、今はまだ、彼ほどに堅い指針を定められてはいないので、
時折 地団駄踏みたくもなるのが難ではあるが……。

  ん〜〜〜。
  あ。どしたの? まだ夜中だよ?
  うん…。
  雨の音で起きたのかな?
  あめ、?
  明日には上がるサ。寒くなるかもしれないから、うんと暖ったまっとこvv

昼間の恐持てはどこへやら。
頼りないお声でうにむに何やら呟いているの、
いい子いい子と宥めつつ。
もしかしたらの分岐点が間近いことを自覚しつつも、
まだ折れたりはしないさと。
君との歩みで得た自信を胸に、
たゆまぬ歩みを続ける所存の、アイドルさんだったりするのである。


  「ついて来れねなら、日本の現地妻だ。」
  「………はい?」


  なんつー寝言だ、悪魔様。
(苦笑)





  〜Fine〜  09.01.28.


  *アメリカに行ってる頃合いなんじゃないかというのは、
   すません、スルーして下さいませ。
   本誌読んでませんので、詳しく知らないんですよう。
   クリスマスボウルの次は なんと世界大会だそうですが、
   どういうランクのが催されるのかさえ判らないままです。
   白秋だって帝黒学園だってたいがいなチームだったのに、
   まだ上がいるのかと…。

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